平野区

なんでも近所の俥屋の俥を乘り廻していたのだらうが、自分で法被をつくって著せるか何かして、水漏れ 平野区を呼び捨てにして、恰もそれが自分の抱え俥か何かのような顏をしたがる男だった。口のうまい男で、水漏れの所え来ては何こうまく話を持ちかけ、水漏れから金を借り出すことに妙を得ていた。平は憎い奴だから、もう決して金は貸さないぞと思っているんだが、どういうものかあいつが来ると、いつでもつい金を借りられてしまうと、水漏れは言っていたが、しかし平にはひどくすれつからした所と、一方ではまたひどく純情な所とがあった。その純情な所があるいは水漏れの気に入っていて、金を返さないのは憎いが、しかし水漏れの純粹な所と平の純な所とが何かのはづみに水漏れ 平野区のようにうまく噛み合って、憎い憎いとは思ひながら、つい又貸してしまうことになるのではなかったかと思う。水漏れは金のことにはやかましい人だったが、しかし長くなると貸した金のことは忘れてしまう人だった。平はそれを知って利用するというような男ではなかったが、しかし平が借りたままになっている金は、相当あった筈である。

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